大きなカブって最初から周りの土除去すればよかったんじゃね?
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■短編、完成
 お待たせ致しました、シルエットブレイド短編ようやく完成です
 何やらその4だけで5487文字という意味不明な事になりましたが
 その5に区分するにも文章のキリが凄く悪かったのでやめました
 とにかく長い上に一つ一つの文章も長いから気をつけて読んでね
 終盤の文章がものっそい破綻してて自信も全然ありませんよええ

 前回同様その1からその4まで全ての物語を掲載させて頂きます

■ていうか
 終わっちゃったなあ短編、次はどんなお話を書こうか悩みまくり
 他所様のキャラクターを交えた一発ネタ文章でも考えようかなあ
 よし、せっかく熱が入ったんだし冷めないうちに色々と考えよう

 他所様のキャラを使うなら作者さんと相談して共同で作ろうかな
 
 
 
■シルエットブレイド ~真夏の夜は喧嘩シーズン~ その1

あれほど昼間に殺人的な光を放ったというのに、熱の残滓は夜になっても消える事は無い。窓の外には面倒くさそうに月が浮かんでいて、名前も知らないような虫達が、喧しい大合奏を繰り返している。

三百六十五日休まず働き続ける太陽や、夏の間毎晩鳴き続ける虫達は凄いな。漠然とそんな事を考えながら、犬属の青年――カルマ=アルヴァデッドは、自室のベッドの上で冒険小説に視線を落としていた。

あの虫達は、夜になっても下がらない気温に腹を立てて鳴いているのか、それとも求愛が巧くいかなくて泣いているのか。虫には虫の都合があるのだろうが、どっちにしろ迷惑だな、とカルマはページを捲る。

先日、お前はもっと言語能力を高めた方が良いと言われ、隣の部屋にいる居候から冒険小説を渡された。強力な魔物に立ち向かう主人公に対して、特に心躍らされるような事は無かったが、暇潰しには丁度良いと思った。読まずに返せば、クイズだの何だのやらされ、結局点数の低さで全て露見してしまう事も安易に想像できる。

何となく瞼が重くなってきたので、枕の横に置かれたしおりを手に取る。月明かりでも十分に目立つそのしおりには、ショッキングピンクの文字で「しびれろ夏の冒険小説」と記されている。出版社の夏のスローガンらしいが、カルマの脳味噌は、色彩溢れるしおりを数秒眺めただけで、はやくもしびれを起こし始めていた。

「おーいカルマー、まだ起きてるかー?」

聞き覚えのある声が、扉越しに響いた。同時に扉をノックする音が、照明が消えた真っ暗な室内を満たす、つまらなそうに漂っている黒い空気を無機質に叩いた。

何か返答しようと少し息を吸い込んだところで、カルマは声を飲み込んだ。返答してしまったら、寝ている事にならない。そんな当たり前の事を理解できないほど、自分の脳は眠気を訴えているようだ。扉には鍵もかけているし、今日は無視して寝てしまおう。薄目の生地の掛け布団に潜り込みながら、そうカルマは思った。

シャッターの降り始めた聴覚が「んだよー、寝てんのかよー」という不満の声を拾う。何となく心の中で罪悪感のような感情が揺らめいた気がしたが、気のせいということにした。「こんな時間に来るな」と呟きながら、本格的に睡魔を貪ることにする。扉の向こうで、カチャカチャと不審な金属音が鳴っていることに、カルマは気が付かなかった。

「なーんだ、ほんとに寝てんのか。チクショウ、開けて損した」

突如通りの良くなった声に、ようやく全身に満ちてきた快眠が一瞬にして消し飛んだ。寝起き直後の霞んだ脳が冷静に事態を把握できず、無意識に上半身を起こしてしまった。ぼんやりとする視界の中に見慣れた顔が割り込んできて、やはり見慣れた笑顔を作った。失敗した、とカルマは深くため息をついた。

「やっぱり狸寝入りかよ。無視するなんて、酷いなお前」

暗闇の中でも十二分に目立つ金色の髪と体毛。強欲さに満ち満ちた、マイナス二十等星に近い輝きを宿した金色と銀色の瞳。狼属の青年――ゼノン=レインフォルクは、まだ眠りの余韻が取れていない同居人に対して、笑いながら言った。
 
 
 
■シルエットブレイド ~真夏の夜は喧嘩シーズン~ その2

「だからさ、カルマ。広告とか街中にはっつければ宣伝効果抜群だと思うんだよ、俺は」

カルマのベッドの上に仰向けに寝転りスイカバーを口に咥えながら、ゼノンが言った。左手にも同じスイカバーが握られているが、持っているだけで、一度も口をつけていない。スイカバーの先端からは、真っ赤な液体が淡々と木製の床に滴り落ちている。

「そうすれば仕事だって増えるし、全部こなせば金だってガッポリ儲けられるし、俺の給料だって増えるだろ?一石二鳥ならぬ、一石三鳥ってわけよ。俺の言ってる事、わかるか?」

「なんとなく」

机に肘をついて窓の外を眺めながら、カルマは適当に相槌をうった。ゼノンがピッキングで部屋に乱入して来てから、かれこれ二時間が経過していた。その間ゼノンは、カルマを強引にベッドから引き摺り下ろした後、勝手にベッドの上に踏ん反り返って、べらべらと語り続けている。

途中、ジャンケンで負けた方がアイスを奢るという勝負を持ち掛けられ、見事カルマは勝利した。が、「本当は勝った方が奢るんだ」というゼノンの意味不明な主張により、結局カルマが自宅近くのコンビニに行かされる事となった。以前同じような事で若干の抵抗を試みた際、地面から氷柱を出現させる追尾系の魔術で、一時間ほど追い回されたことがあった。

当然だが、ゼノンは相手の意思など完全に無視する。他人の部屋には平気で入ってくるくせに、自分の部屋に入られるのを嫌がる。まさに欲望の塊のような男なのだが、目まぐるしい激動の日々の中でそれを思い知ったカルマには、それももうどうでも良いような事だった。

不服そうにアイスの棒を上下に動かしながら掛け布団をクシャクシャに丸め、ゼノンは不必要なほど両眉をつり上げた。どうせ、態度が素っ気無いとでも言うつもりなのだろう。カルマとしては、そろそろ池くらいの広さになりそうなアイスの汁をどうにかして欲しかった。

「お前、人の話ちゃんと聞いてんのかよ。せっかく俺が、便利屋のために色々考えてるっつーのに」

「別に考えなくてもいい」

「あー、何だよその態度。そんなんだから、いつまでたっても家賃が払えねえんだよ」

アイスの棒を部屋の隅に置かれたゴミ箱に向かって投げ捨て、ゼノンは既に原型を留めていないもう一つのスイカバーを口に突っ込んだ。ゴミは的を外れて床に落下したが、特にこれといった文句も浮かばなかったので、眼鏡の位置を正しながらカルマはゴミを拾った。

そもそも家賃を滞納している理由だって、その十割がゼノンの失敗によるものだ。数ヶ月前、何処かの富豪に飼い猫を探して欲しいという依頼があった。発見して追い詰めたところでゼノンが噛み付かれ、逆上したゼノンは猫と大喧嘩を起こした。結果、全治三週間ほどの怪我を負わせて、めでたく報酬はマイナスとなった。

怪我の手当てをしていた時、ゼノンは「正義は必ず勝つ」などと訳の分からないことを口走っていた。腕を噛まれた程度で逆上する男のどの辺りが正義で、自己防衛のために攻撃しただけの猫のどの辺りが悪なのか、カルマにはちっとも理解出来なかった。

「ふああ・・・・・・なんか眠くなってきたな・・・・・・」

枕に顔を突っ伏して、ゼノンが大きく欠伸をしながら言う。頬杖をついていたカルマも、つられて小さく欠伸をした。欠伸は伝染すると聞いたことがあるが、ゼノンから感染したと考えると、あまり良い気分にはなれなかった。

「とにかく、明日からビラ作りと街中回って貼り付け作業やるからな。ビラのデザインとかは、明日俺が起きてくる前までに考えておけよ」

言うだけ言うと、ゼノンは身軽なターンを決めてTシャツの裾と黄金色の尻尾を翻し、部屋から飛び出していった。眠いと明示していた割には、扉を閉める勢いが普段より凄みがあったのは、恐らくこの熱帯夜の所為で、気分が半ば自棄糞だったからだろう。

ゼノンがいなくなり、室内は再び虫の音の大音響に包み込まれる。ふと壁に掛けた時計に目をやると、時刻は既に夜中の一時を回っていた。深緑色の髪の毛を指に巻きつけながら、カルマは浅くため息を吐いて一言呟いた。

結局、アイツは何をしに来たんだ、と。
 
 
 
■シルエットブレイド ~真夏の夜は喧嘩シーズン~ その3

ゼノンがこの部屋にやって来る時は、眠れないから話に付き合えだの、出世払いで金を貸せだの、大抵ろくでもないような理由ばかりである。しかし、鍵を抉じ開けるまでして来た事は今まで一度も無かった。まあ、自分が知らないだけで、実際には何度も侵入されていたのかも知れないが。

普段と異なるゼノンの行動に、何か大事な話でもあるんじゃないか、とまでカルマは推測していたのだが、どうやら違ったらしい。延々と二時間近く喋り続け、その上カルマを顎で使った事から考えるに、結局今夜も暇だったからという、カルマにとって迷惑以外何者でもない理由だったのだろう。

菓子の袋や漫画雑誌などが散乱しているベッドを一瞥した後、何気なくカルマは部屋を見回してみた。室内には小さな家具が幾つか並んでいる。だがそれは生活に最低限必要なものだけで、カルマ=アルヴァデッドの個性を示す色や形が、何処にも見当たらない。

別に、部屋を飾ってはいけないという決まりがある訳では無い。カルマがそうゆう事に全く興味がないだけで、他の人達はそれぞれ自分の好みに合わせ、部屋を彩っている。ゼノンに至っては、青空模様の壁紙を特注で作るほどの徹底振りだ。作成を請け負わされたのは、他ならぬカルマだったが。

「すっかり忘れてた。俺の部屋のエアコン、壊れてやがるんだよ」

三分もかからずに、ゼノンがエアコンのリモコンを振り回しながら、扉に破壊するかの如く殺気立った音を立たせ、やかましく舞い戻ってきた。薄闇の中でも鬱陶しいほどに輝く瞳の持ち主の頬は、怒りとともにうっすら上気している。

リモコンをベッドの上に放り投げ、新たに持ち込んだスナック菓子の袋を豪快に開けて、最後に自分もベッドにダイブしてゼノンが言う。勢い良く飛び込んだ所為で、大量に摂取すれば確実に体を悪くしそうなポテトチップスが、乾いた音を立てて四方八方に散乱した。

「いくらボタン押しても、何も反応しないんだよ。それどころか、電源すら入らねえし。」

「今日は、エアコンをつけるほど暑くないだろう」

引き出しから黄ばんだノートを取り出して、先ほどゼノンの言っていた広告とやらのデザインを考案しつつ、カルマは正直な感想を伝えてやった。苛立たしげに眉間に皺を寄せてベッドの上から起き上がったゼノンが、スナック菓子を一気に口の中に流し込んで豪語する。

「俺は、お前みたいに血管に流氷が流れてるわけでも、氷点下ワールドの心の持ち主でもないんだよ。ちゃんと感情がある一般人は、普通に暑いって感じるんだよ」

ゼノンの何処が一般人という枠組みに当てはまるのか、カルマは割と真剣に考えてみた。確かに、自分は極度の無感動だ。性格に普遍的な要素が無いという意味では、一般人とは程遠い位置にいると判断して良いだろう。だが、それはゼノンも同じであり――

そこまで考えて、ゼノンの言葉を真面目に捉える行為自体が無意味だという事に気付き、カルマは考えるのを放棄した。どうせ自分は、頭の中にツンドラが広がっていて、心身ともに温度の低い獣人だ。

元々獣人という種族は、その身体を余す事無く覆う体毛により、体温が人間よりも僅かに高い。何処かで読んだ生物学の本によると、確か平熱は三十八度程度。けれども、カルマの体温は三十四度弱という、平均を遥かに下回る異例な数値をたたき出していた。

だから、と言う訳ではないが、生まれつきカルマは寒暑を感じにくい。さすがに、夏は厚着だろうと冬は薄着だろうと関係無いとまではいかないが、それでも、夏の間にエアコンをつける事は滅多に無かった。

「つーかカルマ。お前の部屋ってさあ、何でエアコンも扇風機も付けてないのに、俺の部屋より涼しいんだ?」

壁に設置されている古ぼけたエアコンを見つめながら、ゼノンが不思議そうに質問を投げかけてきた。指先で器用にシャーペンをくるくると回しながら、カルマは面倒くさそうに椅子を回転させ、ゼノンの方へ向き直る。

「この部屋って、そんなに涼しいのか」

「お前の部屋だけっていうか、スルトの部屋もアゼルの部屋もそうだな。一番涼しいところは、スルトの部屋」

「じゃあ俺の部屋じゃなくて、スルトの部屋に行けばいいだろう」

「そう思って行ったんだけど、アイツもう寝てたんだよ。ちなみに、二番目に涼しいのは、アゼルの部屋」

「だったらアゼルの部屋に行けばいい」

「覗いたら一人で酒飲んでて、何か入りづらかったからやめた。だから、今この家で一番快適な場所は、此処しかないって訳だ」

「つまり、何が言いたいんだ」

「フッ・・・・・・本当に勘の鈍い奴だな」

呆れた様な物言いで言葉を放ったゼノンが、金銀の映える瞳を閉じて肩をすくめる。ゼノンは大袈裟な動きでベッドの上に立ち上がると、何の意味があるのかカルマをびしっと指差し、猛々しく鼻息を吐いた。そして奇妙な勝ち誇るかのような笑みを浮かべて、声高々に宣言する。

「今日は俺がこの部屋で寝るから、お前は出て行けって事だよ!」

一瞬、全世界の時が凍てついたかに思えた――が、飽くなき演奏会を繰り広げ続けている虫達によって、それはただの錯覚だと気付かされる。窓の外から、息苦しい熱風と共に庭で自棄気味に花を咲かせていた紫陽花の欠片が滑り込み、カルマは静かに肩を落とした。
 
 
 
■シルエットブレイド ~真夏の夜は喧嘩シーズン~ その4

お前は何処の国の王様だ、と疑問を抱きたくなるゼノンの発言に対し激しい目眩を感じつつも、カルマは眠気により朦朧としてきた意識を奮い立たせ、あまり容量のない記憶を一から整理してみることにした。

まず、現在の時刻は午前一時。ゼノンは快適に眠れる場所を探して家の中を彷徨い、結果カルマの部屋の鍵を抉じ開け侵入。しかし、二時間に渡る雑談の間に目的を忘れ、一度自室に戻ってからその事に気付き、慌しく戻ってきて今に至る――要点を纏めると、恐らくこんなところだろう。

こちらの沈黙を了解と解釈したらしく、ゼノンはベッドの上から飛び降りて、カルマの右手を骨を砕かんばかりの握力で掴み、椅子から引き剥がした。そして、「はいはい出て行った出て行った」と、随分と満足気な口調で言いながら、カルマを部屋の外へと引き摺っていく。

誰の血を引いたらこんなに元気になれるのだろう、とカルマは引き摺られながらどうでもいい事に深く唸ったが、途中、そんな事に思考を巡らせる暇は無いという事に気付いた。この状況の打開策なんて皆目見当が付かなかったが、とりあえず、とカルマはゼノンの手を強引に振り解いた。

抵抗される事を予測していなかったのか、突然のカルマの行動にバランスを崩したゼノンが、扉に顔面を盛大にぶつけた。自業自得だ、とカルマがため息混じりに振り返ると、激突した際に負傷したのか、ゼノンは鼻血を流していた。だがその血よりも紅く激しく、ゼノンの両目は憤怒の色を濃くしていた。

「なあカルマ。俺は、快適に眠れる場所を探してたんだ」

「知ってる」

「なあカルマ。俺は、そのために此処に来たんだ」

「知ってる」

「なあカルマ。俺は、もう眠くてしょうがねえんだ。それなのに邪魔されて、鼻血まで出しちゃって、すげえ困ってるんだよ」

「知ってる」

再び脳がまどろみに浸り始めたため、言語を選択するのが面倒になり、カルマはつい適当な返答をしてしまった。それが余程気に障ったのか、ゼノンは額に無数の青筋を浮かばせ、三回ほど頭をひっぱたいてきた。少しだけ、意識が明瞭になった気がした。

「あーもういい!そんなに此処に居たけりゃ、勝手にしろよ!けどな、どうなっても知らねえからな!」

ベッドの上に飛び乗り、天井を槍で突き刺す様に指差したゼノンが、口調を荒げて忠告し、瞑想と思しきことを始めた。何処かの特撮アニメの必殺技の真似でもするつもりなのか、とカルマは怪訝そうに眉を寄せた。数秒の間、室内が静寂の波に呑み込まれた。

「現せよ、四源を律する魔空の氷雨――」

何時になく真剣な表情でゼノンが言った。ゼノンの足元から淡い蒼色の光が溢れ出し、ゆっくりと彼の周囲を廻り始める。呪文の詠唱――聴覚によりも先に、魔力の揺らぎでカルマはそれを察知した。しただけで、別段止めようとは思わなかった。

「大気のなぞる空間において、二十四刻、星の巡りを逆転。冬は二度動け。『転季』――起動」

ゼノンの人差し指の先端に、宙を漂っていた光が争うように収束し、一直線に天井へと吸い込まれた。その直後、大気が渦を巻くように蠢き、天井が重苦しい鉛色の雲で翳り始めた。室内の湿度が急速に上昇し出し、気温の激変で体毛の奥の皮膚が震えた。

次の瞬間、全身が凍りつくような寒風が吹き荒れ、空気の中を純白の雪の粒が狂ったように舞い下りた。大気のなぞる空間――つまり、この部屋を対象として、二十四刻――普通時間に換算して約十二時間、季節を逆転させる術を施したのだ。

暑さにはてんで弱いゼノンだが、寒さには異常なまでに強い。一般人なら確実に凍死するこの環境も、ゼノンにとっては単なる冷房にしか過ぎないのだ。最初からこの術を使うつもりだったのなら、別に自分の部屋でも良いだろう、とカルマは思った。言えば、三百倍くらいの言語数で反論されるに決まっているが。

室温は早くも二桁を下回ったようで、吐く息が冗談のように白く染まっていた。鬱陶しい視線でそれを見据えながら、カルマは緩慢な動きで立ち上がった。放置する気は元々無かったが、単純に寒くなってきたのもある。頭と肩に積もった雪を掃い、カルマは静かに呪文を紡ぐ。

「現せよ、霊門を流れる輪廻の幽闇。大気のなぞる空間において、天地を統べる全ての魔導現象を破綻、抹消。『葬界』――始動」

カルマを中心に、闇色の鈍い光が波となって四方を駆け抜けた。吹雪となって宙を暴れていた雪の一つ一つが、黒い波紋に触れた瞬間、形を保ったまま静止画像のように停止する。波の消滅と同時に、固まっていた雪全てが一斉に弾けた。耳障りな金属音が響き、鼓膜が痛んだ。

嘘のように雪が止んでいた。床板や家具に積もっていた雪も、水一滴どころか湿気の残滓さえ残さず、何事も無かったかのように消滅していた。大地、もしくは空間が対象となる全ての魔法の効果を抹消させる術を使用したのだ。カルマは蛍光灯からゼノンへ視線を動かした。

「何すんだよ、このうすら馬鹿!せっかく呪文唱えてまで魔法使ったってのに!俺の眠りを妨げるのが、そんなに楽しいか!」

地団駄を踏みながら、鬼気迫る表情でゼノンが喚く。足の下で先月購入した快眠君とかいうセンスの欠片も見当たらない名前の枕が、マシュマロのように潰れては元に戻るを繰り返していた。

「それはこっちの台詞だ。やるなら、自分の部屋でやれ」

「ほんっとにしつこい奴だなお前は!お前が素直に出てって俺の部屋で寝れば、全部丸く収まるんだよ!それなのに、邪魔ばっかしやがって!」

怒り狂って騒ぎ立てるゼノンを無視して、カルマはぐるりと室内を見回した。部屋の広さは七畳半程度、家具は壊れても買い替えの効く物ばかりだが、出来れば無駄な出費は抑えたい。ならば、攻撃魔法は避けるべき――カルマはもう、頭の中がすっかり謎の独裁者思想で染まっている獣人は、居候と見なさないことにした。

勝利条件はゼノンの気絶。意識さえ失わせることが出来れば、後は自室に連れ戻して、ベッドの上にでも寝かせてやれば良いだろう。殴り合いの喧嘩となると、腕力は同じくらいだが、素早さの差で競り負ける可能性がある。銃があれば麻酔弾を打ち込んで済む話だが、生憎銃は机の引き出しの中だ。

机に駆け寄り、引き出しを開け、銃を取り出し、装弾して、狙いを定め、発砲する。その間に、ゼノンが攻撃してこない訳がない。それに、現在のゼノンの精神の高揚振りから推測するに、カルマのような気絶させるだけという生易しい攻撃は、絶対にしないだろう。

攻撃魔法で牽制すれば、多少の隙を作ることは可能だ。しかし、その場合ゼノンの足元にあるベッドと、その後ろにある壁が百パーセント犠牲になる。金の浪費はしたくない。何時から自分はこんなにも所帯染みてしまったのか、とカルマは自分自身に小さく舌打ちした。

先手必勝――カルマが口早に呪文を唱える。ゼノンが何か怒声を放った気がしたが、面倒くさいので聴覚に入る前に閉め出した。目を瞑ったら眠ってしまいそうな気がしたので、瞑想はしない事にした。

「現せよ、霊門を流れる輪廻の幽闇。我を主柱に輪を一尺、大気を染めて八方三間、幻夜と睡魔を司れ。『儚霧』――始動」

大気が墨汁を気化させたような漆黒の霧に変わり、数秒で部屋全体が闇に呑まれた。対象の視覚を奪い、眠りを誘う術――僅かにでも吸い込めば、四肢が痺れて目眩を起こし、その場に倒れこむ。気絶にまで至らなくとも、そこまでいけば上出来だろう、とカルマは思った。

霧が薄まってきた視界の向こう、ゼノンが立っていた場所に、半透明で涼しげな水色の光の膜が顔を覗かせた。膜の中心部には、嘲笑に似た表情を浮かべているゼノンの姿があった。右手には光と同じ色の紙切れが握られており、膜はその紙を基盤に展開されていた。

失敗したか、とカルマは頭を掻いて舌打ちした。どうやらゼノンは、霧が発生する僅かな時間の間に、簡易結界を張る魔法カードを使ったようだ。大方、ズボンのポケットの中にでも隠し持っていたのだろう。嫌味な視線をこちらに飛ばし、ゼノンが嘲るように言う。

「おうおうカルマさんよう、何ですか、いきなり魔法なんてぶっ放しちゃって。先手必勝で俺を気絶させようってのは、イイ線いってたと思いますけどねえ。そう簡単にやられませんよ、俺は」

ゼノンが指の骨を鳴らした時、ちょうどゴングのように時計が午前一時半を知らせるべく、鐘の音を鳴り響かせた。その直後、ベッドの上からゼノンが跳躍して襲い掛かってきた。とび蹴りか、かかと落としか、ゼノンの動きを注意深く見据えながら、今夜は眠れそうにないな、とカルマは思った。



窓から見渡せる常闇の街並みからは、生活の音が一切聞こえない。夜景に散らばる貧弱な灯火は、殆どが街灯から放たれているもので、更にその内の幾つかは、必死なのか面倒なのか判断しにくい赤と白の明滅を繰り返していた。

窓から流れ込む湿度の高い風を追い返すように酒の香りのする息を吐き、虎属の男――アゼル=セトレーヴァスは自室から廊下に出た。日中あまり陽の差すことのない廊下の床板から、純白の体毛と黒い縞模様に覆われた素足を伝い、夏の割には些か冷たすぎる感覚が背筋まで届いた。

夕食と入浴を終えた後、一人自室で酒を楽しんでいたアゼルだが、真夏の夜独特の風の音や、毎年この時期に訪れる合奏団に風流を感じ、つい肴にしていた甘味類を食べ尽くしてしまった。一階の冷蔵庫に買い置きのプリンがあったはずなので、アゼルはそれを回収しに行く途中だった。

一番階段に近い部屋に差し掛かった時、何かが倒れるような音や、誰かが放つ怒鳴り声などが響いた。音に反応したアゼルは一瞬足を止めたが、またすぐに歩みを進める。この家に居候するようになってから、このような事は日常茶飯事だということをアゼルは知った。

突如、轟音と共に巨大な氷柱が木製の扉を突き破って現れた。が、アゼルはその事態に眉毛一本動かさず、氷柱を視界に入れる事無く物凄い速度で右腕を振り上げ、そのまま裏拳を叩き込んだ。氷塊は、何処か残念そうな音を立てて粉砕した。

物語には全て、それ相応の結末があるものだ。一時の間栄光を極める魔王も、最終的には勇者と呼ばれる存在によって討ち取られる運命にある。今、氷柱が飛んできた部屋で行われている物語にも、その物語ならではの結末が用意されているのだろう。

そんな事を考えながら、アゼルは視界の悪い階段を一段一段確実に降りていく。有に九十キロを越えるアゼルの体重に対し、階段は気弱な降参の意を示して軋んだ。背後で派手な爆音と震動が轟き、アゼル以外に今まで静寂を保っていた同居人の気配を感じ取る。閉幕だな、とアゼルは欠伸をしながら思った。



「何時だと思ってんだこの馬鹿野郎共がぁ!さっきから黙って聴いてりゃ、ぎゃあぎゃあうっせえんだよ!」

大きな穴が穿たれていた扉が、無数の木片となって室内に飛び散った。闘争心を剥き出しにして戦っていた狼獣人も、気怠くも自室を護るべく戦っていた犬獣人も、体毛を濡らす汗を拭うことさえ忘れて身体を硬直させ、ほぼ同時に扉の方へ視線を投げた。

扉が存在していたはずの場所に、一人の猫獣人が立っていた。酷く寝癖のついた栗色の髪。紅蓮色に煮え滾る、エメラルドグリーンの瞳。不機嫌だと一目で判断できるほどつり上がった眉。猫属の少年――スルト=ウィンディエルが、そこにいた。

「人がぐっすり寝てるっつーのに、ピーピー騒ぎやがって・・・・・・ふざけんのもいい加減にしやがれ!」

貧弱な語彙を駆使して、スルトが怒声を放った。スルトは普段、言葉遣いがとても丁寧で、ゼノンと比較にならないほど礼儀正しく心優しい少年なのだが、ある条件を満たすとその性格は一変し、ゼノン顔負けの気性の荒さを誇る。その条件とは、快眠を妨害されることだ。

どうやら、長時間に渡る殴り合いや魔法の撃ち合いにより、謀らずともスルトの睡眠を阻害してしまったらしい。途端に顔を青くして怯え始めたゼノンを見つめながら、カルマは半ば自嘲気味にため息を吐いた。最初から抵抗などしなければ良かった、と。

「落ち着けスルト!元はと言えば、カルマがさっさと部屋を明け渡さないのが悪くてだなあ・・・・・・」

「お前が大人しく自分の部屋で寝なかったのが、そもそもの原因だろう」

「ごちゃごちゃうるせえよボケ、いいから黙れ。現せよ、四源を律する魔空の風塵――」

喧嘩の次は罪の擦り合いを始めた二人の言葉を遮り、スルトは苛立ちの念をありありと感じさせる口調で呪文を唱え始めた。ゼノンが泣き叫びながらカルマの首を絞めにくる。手加減が一切感じられないその力は、恐怖によるものなのか、それともどさくさに紛れて殺そうと企んでいるのか、カルマには判断がつかなかった。

「三尺前方全存在を、雪崩れる狂風にて搏撃、撃砕。『風撫』――起動」

唱え終えた瞬間、スルトの両手から緑色の光が溢れた。視覚と聴覚が麻痺していく中、カルマは家具などの被害総額を計算してみた。机に、本棚に、ベッド。それに壁に穴を開けてしまったし、ドアも粉々にしてしまった。修理代にいくら掛かるのだろうか。

そこまで考えたところで、全身を魂が吹き飛びそうな衝撃と痛覚が襲い、カルマとゼノンは原型を留めていない家具やその他諸々と一緒に放り出された。薄れゆく意識の中でカルマが見たものは、濃い真夏の闇夜に映える、無慈悲な光を燈す満月だった。ゼノンは、宙を飛ぶのって結構気持ちいいな、と思った。

こうして、カルマ=アルヴァデッドの慌しい夏の夜は、しめやかに終わりを迎えたのだった。
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この記事へのコメント
2006.05/20(土) [らら]
2006.05/20(土) うひょひょう[kaku]
2006.05/20(土) [狩霧沢]
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