大きなカブって最初から周りの土除去すればよかったんじゃね?
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■疲弊&完成
 短編第二段のその弐を掲載しますた。約一週間経ってしまったね
 例の如く最初から載せてあるから始めて読む方々にも安心設計
 とりあえずものっそい疲れたのであとがきとかは明日に書きます
 今回で三つの課題の内の暖かい話を半分達成。残りはラストにて
 
 
 
■シルエットブレイド ~流行りの病気で主役交代!~ Act.1

喉から食道へ抜け、胃の入り口に至るまでの道が、熱湯を注ぎ込まれたかのように熱い。僅かに呼吸しただけで、空気が気管と肺に自虐的な攻撃を繰り返す。呼吸器官が痛むと、何故か離れた位置にある頭も痛み、全身の関節も鈍痛を響かせてくれる。

体中の隅から隅までが熱く煮え滾り、油断すれば全ての細胞が液体化してしまう気がした。何故か額だけ冷気の気配を感じるので、溶けるとしたら脳味噌だけ残るのだろうか。頭痛と悪寒と吐き気に侵食されきった意識の隅で、カルマ=アルヴァデッドはぼんやりと考えた。

靄のかかった視界に映るのは、白く鮮やかに光る天井の蛍光灯。最近取り替えたばかりなのか、色は白と言うより青に近い。窓の外には乾いた青空が広がっていて、雀がやはり乾いた声で鳴いていた。そこでようやく、此処が自室のベッドの上だという事にカルマは気が付いた。

目覚まし時計と思しきベルの音が鳴り、硝子細工のように繊細になっていたカルマの脳に、金鎚で殴られているような重い痛みが駆けた。頭を抱えるか、耳を塞ぐか、音を止めるか、懸命に両腕を動かそうと試みたものの、関節が悲痛に悶えるだけで、結局何も出来なかった。

目覚まし時計に殺されるなんて嫌だな、とカルマが思った時、慌しく床板を蹴る音が、柔らかなベッド越しに伝ってきた。足音は次第に音量を増していったが、途中でぴたりと止んでしまった。その刹那、何時だったか扉を破壊された時と似たような音が響き、カルマの頭痛に素晴らしい相乗効果を齎した。

胃の深部から何か込み上げてくるものを感じ、カルマは必死に焼けた鉄パイプのような喉に力を入れて唸った。夢だったら良いのにとか、まだ二十年も生きてないなとか、諦観と生への執着が入り混じった思考が頭の中を這いずり回った。

「うっせえなー。どうせ二度寝すんだから目覚ましなんかセットすんなよ」

誰かの不機嫌な声が聴こえ、小言はいいから音を止めてくれとカルマは思った。こちらの懇願を察したのか、それとも単に音が煩わしかったのか、恐らく後者だと思われるが、声の主は苛立たしげに舌打ちして目覚まし時計に歩み寄った。

「大体、体調悪いってのに何で目覚ましかけようっつー発想浮かぶのかなー。訳わかんねえよなー」

声の主は腕を降ると、時計を思い切り殴った。ばぎょ、と不可解な音を立てて時計は砕け散った。カルマは一応持ち主なので、お前は馬鹿だとか、スイッチの切り方が間違っているとか言ってやろうと思ったが、既に自発的な呼吸すら困難を極めてきたため、何も言う事が出来なかった。

「お前って、流行ものには全然興味ねえくせに、変なところで流行りに乗るんだな」

ベッドの横に置かれた椅子に重心を下ろし、床を転がる壊れた時計をつま先で軽く蹴ると、声の主は眉を下げてため息をついた。ベルの音によって視覚と聴覚が半壊気味ではあったが、その声やぼやけた金色の影は、カルマの記憶に深く刻み込まれた人物と酷似していた。

「・・・・・・ゼノン?」

声を発し終えた直後、湿度を微塵も含んでいない冷えた空気が喉に入り込み、カルマは苦い味のする咳を繰り返した。声の主――ゼノン=レインフォルクは、再び喋ろうとして咳き込むカルマを目で制すと、カルマの額に乗っている濡れタオルに左手を翳し、独り言を呟くように静かに口を開いた。

「現せよ、四源を律する魔空の氷雨。一尺前方対象、雲水を滞らせ水流の帷に包め。威力は零の二。『泡戯』――起動」

歪んだ視界の中、唯一顔面に近付いた事によって幾分明確に捉えられた掌が、水面に映る景色のように、様々な形に歪んだ。何を言ったのかは巧く聞き取れなかったが、額の冷気がより強く感じられるようになった事から、水を発生させる魔法を使ったのだろう。

「全く、アゼルといいスルトといい、どうしてお前までぶっ倒れんだよ・・・・・・風邪薬は一応あるけど、こりゃ初期症状にしか効かねえやつだな」

部屋の隅でぞんざいに転がっている薬箱を乱暴にひっくり返し、風邪薬の効能を確認すると、ゼノンはやはり乱暴に薬箱を放り投げた。そもそも、ここ数年風邪など拗らせたことがなかったので、箱の中の薬の大半は使用期限が切れている気がした。

風邪。その言葉を聞いて、今日は起床した時から頭痛と目眩がした事。方向感覚が巧く機能してくれなくて、壁伝いで自分の部屋から出た事。一歩一歩進む毎に、胃の奥から吐き気が込み上げてきた事。何とか階段を降りきった直後に意識が途切れ、その場に昏倒した事をカルマは思い出した。

誰が自分を部屋まで運んでくれたのだろう――引き算を習ったばかりの小学生でも解ける計算式だったが、熱で沸騰しかけた脳味噌はひたすら機能が低下し、残念ながらカルマは正答を導き出す事が出来なかった。

曖昧な視線で見つめてくるカルマに対して鼻息を一つ鳴らすと、ゼノンは心底面倒くさそうに頭を掻いた。その態度は、「お前を部屋に運んだのは俺だ。これで一つ貸しだからな」と、露骨な自己主張をしていた。カルマはため息をつき、息の下でゼノンに礼を言った。

「風邪に効くのって、卵酒だっけか。でも作り方がわかんねえな。あとは・・・・・・生姜湯?生姜って、あのチューブに入ってる黄色いやつだよな。あれをお湯に溶かせばいいのか?つーか全員寝込んじまってるから、暫く俺が食事当番か。めんどくせえー」

深く首を捻りながら、ゼノンは先の不満を漏らし始めた。カルマは「何も飲みたくない」と答えようとしたが、言葉は出ずに咳が出た。ゼノンは下げていた眉を綺麗な四十五度角につり上げ、カルマの腕を掴んで無理矢理ベッドから引っ張り起こした。カルマの全身を、縦揺れか横揺れか判断し辛い波打った振動が襲った。

「病院に行った方がいいな。スルト達には悪いけど、お前が一番具合悪そうだ。万が一の事があったら冗談じゃ済まされねえし」

カルマは「面倒くさい」と答えようとしたが、やはり言葉は出ずに咳が出た。ゼノンの手を振り払おうにも力が入らなかったが、カルマの腕を硬く握るゼノンの手は、心無しか震えているような気がした。万が一の事って何だ――ぼんやりと考えているうちに寝巻きを脱がされ、私服に着替えさせられてしまった。

「その前に、スルトとアゼルにお前を病院に連れてくって伝えてくるわ。寝てるかもしれねえけど、ついでに晩飯何が食いたいかも訊いてくる。俺が戻ってくるまで大人しくしてろよ」

普段と何一つ変わらない太陽のような笑顔を浮かべ、ゼノンはそう言い残して部屋から出て行った。笑顔だったが、声は消え入るような酷く掠れた声だった。先程の震える手と言い、自分が病気を患った事に、ゼノンは恐怖しているのだろうか――確証など何処にもなかったが、ほんの少し胸が軋むのをカルマは感じた。



■シルエットブレイド ~流行りの病気で主役交代!~ Act.2

冬空の上で懸命に世界を照らす太陽と、光に彩られ揚々としている街並み。そんな世界から隔絶されたと錯覚するほど冷徹に静まり返った廊下で、木目の細かな壁に背中を預け、ゼノンは無意識に荒く深い呼吸を繰り返していた。壁が放つ寒気の所為か、背筋が凍りつきそうだった。

全身から粘着質な脂汗が噴き出し、体毛の間を緩やかに汗が流れていくと、濡れた箇所から血の気が次々と退いていくのを感じた。胸部を内側から叩く鈍重な心臓の鼓動が気持ち悪いくらいはっきりと耳に届き、抑制の意思を無視する四肢が、骨の髄から震える。

銀の光が宿る左目を強く押さえ、右目で震顫の止まない手を見据えながら、ゼノンは独り言を呟いた。しかし思うように舌が回らず、口から漏れるのは弱々しい嗚咽だけだった。ゼノンは二、三度深呼吸をして、再度口を動かす。

「クソッ・・・・・・何勝手に震えてんだよ。あの時とは違うんだ。アイツも、あの二人も、絶対に治る。絶対に・・・・・・大丈夫」

大丈夫なんだ、と三回復唱して、ゼノンは爪を立てて両腕を最大限の力で握り締めた。急激に血の巡りが滞った腕が指先から痺れ始め、一分ほど経過すると、震えは麻痺に上書きされて消えていた。手を離すと、腕の肉が爪で僅かに抉れていて、鮮やかな金色の毛に血が滲んでいた。

頬を両手でばしんと叩き、ゼノンは冷えた廊下を歩き出した。力を入れすぎたのか、涙腺の緩んだ二色の瞳には、薄く透明な雫が浮かんでいた。自分が頑張って看病して、さっさと三人に元気になってもらおう。そう思った。

そうでないと、永遠に自分が食事当番をすることになってしまう。つくづく俺って打算的だな、とゼノンは口の端だけ上げて笑った。新たに浮かべた笑顔からはもう、ゼノンを荒く塗り潰していた恐怖や焦燥の色は色褪せていた。

---

ゼノンの言葉の通り、カルマは静かに厚手の毛布を握り締め、何となく窓越しに広がる景色に視線を投げていた。風邪で視界が揺らいでいる上に眼鏡も外しているので、実際は色と形程度しか識別出来ていないのだが、そんな瑣末的な事はカルマにとってどうでも良い事だった。

二度瞬きをし、カルマは毛布を握りなおした。一瞬暗転した視界、瞼の裏に映ったのは、数分前まで隣に座っていたゼノンの儚げな笑顔。昔から稀に見られた表情ではあるので、さして動揺はしなかったが、それはカルマが嫌いな表情の一つでもあった。

どうしてあんなに悲しそうだったんだろう。カルマの中にそんな疑問が生じた直後、全身を歪める不快感の中で、喉元が意味不明な息苦しさを訴えた。頭と胸にも、内側から破壊されるような痛みが奔った。目の焦点が合わず、蒼色の瞳が揺れる。

「信じらんねえ。アゼルの奴、何食いたいって聞いたら、おしるこって即答しやがった。何だよおしるこって。風邪ひいてるくせによ。普通、おじやとかだろうが」

小さなメモ用紙にボールペンを走らせながら、ゼノンが捨て台詞めいた言葉を吐き捨てて部屋に戻ってきた。今夜は個別に夕食を作らなくてはならないので、書き留めておかないと材料を買い忘れると判断したのだろう。メモには下手糞な字で食材の名前が一覧化されていた。

「それに比べてスルトは謙虚過ぎるな。あまり迷惑を掛けるのは申し訳ないので僕はお粥で良いです、だってさ。折角俺が奮発して作るんだから、もっと美味いもの頼んだって罰は当たんねえのになあ」

メモを綺麗な四つ折りに畳んでズボンのポケットに突っ込むと、ゼノンは深く頭を垂らした。予定が多すぎる事に憂いているらしい。一年中職務怠慢しているのだから、少しくらい勤労意欲を見せても罰は当たらないだろう、と咳混じりにカルマは思った。

顔を上げたゼノンが、物を穿つような視線でカルマを数分凝視すると、両耳を凛と立てて目を見開いた。戸惑いの色を塗りたくった表情で、何かに突き動かされるように歩み寄ると、カルマの頬を両手で挟み、互いの鼻先が触れる寸前まで顔を近づけた。カルマは訝しげに眉を寄せた。

「・・・・・・どうかしたか?気分悪いのか?なんか変だぞ、お前」

不安げに瞳を揺らしながら、ゼノンが言った。カルマは「お前の方が変だ」と逆に問いたかったが、どうせ言葉は出ずに咳が出るので、黙って小さく首を振った。

「ならいいんだけどさ、気持ち悪くなったらすぐに言えよな。我慢とかしなくていいからな」

安堵に表情を綻ばせ、ゼノンは頬に添えていた手を離した。踵を返してタンスに歩み寄り、引き出しを一番上から階段状に開くと、中の衣服を掴んでは投げ捨てるという奇妙な行為を始めた。何も知らない人がこの光景を目撃したら、確実に泥棒だと勘違いするだろう。

飛び交う自分の衣服を眺め、時に体を捻って回避しながら、後片付けは誰がするんだ、とカルマは誰にも聴こえない程度のため息をついた。何がしたいのかは大方予想が付いていたが、可能ならば、なるべく丁寧に取り出して欲しいとカルマは切に思った。

タンスに収納されていた衣服の約八割が床に散乱したところで、ようやくゼノンの動きが止まった。手には、一着のダッフルコートがぶら下がっていた。ゼノンは一仕事終えた後の猟犬の如く、誇らしげな鼻息を吐くと、コートを適当に丸めてカルマに投げて寄こした。

「外は寒いからそれ着とけ。あと、今更だけど、歩けるか?」

半袖半ズボンという、今の季節に似つかわしく無い服装をしている人物に注意を促されるのも何か間違っている気がしたが、カルマは無言でコートに袖を通した。相変らず四肢の関節部は痛覚の熱を帯びていたが、歩けるかどうかは判断し辛かったので、カルマは首を傾げ、不明の意を示した。

苦々しく眉間に皺を寄せて腕を組むと、ゼノンは数秒間唸った。指の爪を前歯でかじり、「面倒くせえなあ」とか、「でも倒れたらなあ」などと何やら葛藤し、やがて諦めたようにため息をついてから、ゼノンはベッドに腰掛けて背中を丸めた。

「転んで怪我でもされたら俺の仕事増えちまうから・・・・・・その・・・・・・おぶってやるよ」

ゼノンがぶっきらぼうな物言いで早口に言った。不機嫌そうな横顔で泳いでいる目は、照れを無理に抑えている表れだった。声が全体的に曖昧だったので、躊躇したカルマが終始無言でいると、ゼノンは背中を左右に揺すり、「早くしろよ」と声を荒げた。

多少の気恥ずかしさによる抵抗はあったものの、カルマは緩慢な動きでゼノンの両肩に肘をかけた。ゼノンがカルマの両足を脇に挟み、「よっこらせ」という掛け声と共に持ち上げた。硬い背中からダッフルコートを伝い、微弱にゼノンの温かな体温を感じた。

背負られてから、カルマは自分がマスクを着けていない事に気付いた。目と鼻の先にゼノンの刺々しい癖の入った金髪が揺れている。咳をしたらここに噴きかかる。どうしたものか。茫然と解決策を考えていると、ゼノンは既に部屋を出て、慎重な足取りで階段の攻略に取り掛かっている真っ最中だった。

神経を磨り減らしている所に声をかけ、気が散ったゼノンが足を踏み外して転落。翌朝の新聞に堂々と心中自殺の文字を飾る――そんな大袈裟な未来が頭を過ぎり、カルマは開きかけた口を閉じた。そして、自分の思考がとてつもなく暴走している事に気付いた。風邪というのは想像力まで蝕むらしい。

二階の部屋から十五段の階段を降りるのに、カルマを抱え直す時間を含め、五分も掛かってしまった。疲弊しきったゼノンが玄関まで歩くと、一旦背中の荷物を床に降ろし、背伸びや肩回しを始めた。この調子で病院まで連れて行けるのか、と諮らずも二人は同じ不安を案じた。

「俺、マスク着けてないけど、大丈夫か」

語尾にしっかりと咳を添えて、カルマが言った。ゼノンは上がった息――肉体的なものではなく精神的なものだろうが――を整える事にひたすら集中しながら、ぐるりと首を回した。骨が妙に生々しい音を一つ鳴らした。

「ああ、俺、生まれてから一度も風邪ひいた事ねえから多分平気。ほら、何とかは風邪をひかないって言うだろ?水魔法使いは、だっけ?どうでもいいけどよ」

それって馬鹿の事じゃないのか、という言葉は、カルマの口の中で消えた。余計な事を口走って激怒させる必要は無い。軽く相槌を打って了解の意を示すと、自分の靴につま先を引っ掛け、履き終えると再度ゼノンの背に体を預けた。

巨大な荷物を担ぐ行商人の気分を味わいながら、ゼノンが玄関の扉を開けた。途端、如何にも冬らしい身震いするほどの外気が全身に絡み付いてきた。口先から絶え間なく漏れる真っ白な靄を見つめ、ゼノンが自棄気味に顔をしかめた。

「あー、もう外歩くの嫌だなあ。恥ずいし、面倒くせえし、疲れるし、重いし。おいカルマ、もし誰かに笑われたら、心の底から感情込めて、『僕が不甲斐無いからいけないんです!ゼノン君を笑わないで下さい!』って同情引くような感じで言え」

馬鹿馬鹿し過ぎて貶す気も起きなかったので、カルマはため息で返答を誤魔化した。河豚のように頬を膨らませたゼノンが毒を吐き始める。丁度良く意識に亀裂が入るのを感じ、カルマは無視するついでに瞳を閉じた。
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